果たして国民は政府のトリックを見抜けるか!
2008年1月21日

非営利法人総合研究所(NPO総研)
主席研究員 福島 達也

 

税制大綱に続き、税制要綱もついに閣議決定されました。
今回の税制の一番の驚きは、やはり「一般法人」のさらなる区分でしょう。
「一般社団法人・一般財団法人」を税制上、なぜ二つに分けることにしたのか。
まあ、専ら会費で運営している学会や同業者団体などのために、会費が非課税になることはわかっていました。
しかし、答申に従ったとはいえ、まさか、収益事業以外の事業収入まで非課税になるとは・・・・
なぜ???

ここで政府はこう答えるでしょう。
「いえいえ、収益事業課税グループと全所得課税グループに分かれるのですから、けっして一般法人が原則非課税になったのではありませんよ」と。
なるほど、確かに、原則課税は残っていますね。ならば改革は成功だったのか・・・
んんん、危うくだまされるところでした。政府のトリックに。
あなたはわかりますか?

トリックはここです。
「収益事業が全て課税対象となる一般社団法人・一般財団法人」というのは、2種類あって、一つは、剰余金の分配を行わないことや理事の親族制限などを定款に定めている団体。もう一方は、会員に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としている法人です。
そして、それ以外の法人が、「全所得が課税対象となる一般社団法人・一般財団法人」となるというのです。

ちょっと待ってくださいよ。
その2種類のどちらでもない公益法人なんて存在するのでしょうか???
公益法人というのは、剰余金の非分配や理事の親族制限なんて今に始まったことではありません。
公益法人ならばあたり前のことです。
もし仮に、分配もしてやろう、理事も全員親族にしてやろうなんて、急に鬼のような団体に生まれ変わったとしても、会員の利益を図る活動をしていれば、もう一方のほうに該当することになり、やっぱり原則非課税なのです。
ということは、原則課税グループを残したなんていうのは、実はウソだったのでしょうか???

そのとおりなのです。
現行の公益法人が一般法人に移行しても、100%収益事業課税グループになるのです。
つまり、全所得課税グループなんて、架空の作り話だったのです。
もちろん、現行の公益法人以外に、その2つにも該当しない、変な一般法人が生まれるかもしれません・・・。

平成12年ごろに戻って、よーく考えてみると、今までの議論や世論はどこに行ったのかわかりません。
この改革のスタートの課題は、天下りの防止と税金の無駄遣いでした。
そして、すぐに登場したのが、原則非課税と原則課税に区分する考え方。
これが嫌でNPO法人は、署名活動やシュプレヒコール行動の上、この改革から脱出して行ったのです。
これなら、脱出などせず、中に入って、寄附金の優遇措置を勝ち取ったほうがよっぽど正解でした。

それにしても、最大の難問は、なぜ公益法人制度改革が必要だったのかということです。
一般社団法人・一般財団法人にも収益事業課税が認められるということであれば、全てが謎に包まれるのです。
これでは、制度改革などをしなくても、税制改革で、現行の公益法人の法人税率を22%から30%に上げ、さらに寄附金優遇措置やみなし寄附金制度の拡充を適用すればよかったのではありませんか?
ただ単に、公益法人の事務局職員や総務担当者をいじめているだけに過ぎませんか???

なぜ、トリックまで使って、最後の最後で、実質上原則課税をなくしたのでしょうか。
今までの苦労はすべて無駄になったかもしれません。
実のところ、小泉内閣の頃の政府は、公益法人を公益性のある団体を原則非課税にして、非公益団体を原則課税に分けたかったのです。それは間違いありません。
しかし、参議院選挙の自民党の大敗を受け、ねじれ国会になり、そして衆議院選挙が間近になった今、もう公益法人などの業界団体をこれ以上敵に回せなくなったのです。
公益法人を全て敵に回せば、現在の与党は、次の衆議院選挙で野党の半数以下になる可能性すらあるのです。
でも、法律を制定した平成18年は小泉内閣。イケイケどんどんという勢いでしたから、やる気はありました。
悲劇だったのは、法律制定の国会の状況と法律施行の国会の状況がまったく正反対になっていることです。
与党圧勝内閣で決めた法律を、野党圧勝内閣から施行しなくてはいけないのです。
その間に決められることは税制しかないのですから、ここで挽回したくなるのもわかりますね。
ここの税制で、公益法人に無視をされたら終わりなのです。
今回の税制が今までの考え方と矛盾していることは、政治評論家なら簡単にわかったことでしょう。

しかし、それなら最初からやり直して欲しいと思うのは、私だけでしょうか?
法人制度改革を止めて、税制改革だけにすれば、公益認定申請のための膨大な作業や認可申請のための公益目的支出計画などのとても難解な作業は一切なくなります。
そんなに厳しい制度を作っておきながら、ゴールは同じようなものなのですよ。



今の公益法人の現状を風刺するとこんな感じです。
人民は、仲良く楽しく暮らしていた。
しかし、ライオン丸という王様の命令で、村はずれの山に「いばらの道」と「嵐の道」があり、どちらかを選択して村を離れなくてはいけなくなった。
どちらかが、貧乏農場行きで、どちらかが億万長者村への道だという。
もし選択しないでその地で暮らそうとすると、5年後にそこにいる者は焼打ちの刑に処せられるという。
しょうがなく、自分たちで考えて選択し、準備万端整えて村を離れる。
いばらの道を選択する者は足を血だらけにしながら。
嵐の道を選択する者は服もぼろぼろになりながら。
息も絶え絶え、ほぼ1年くらいかけてやっとその山を越えていく。
すると、その先では分かれるはずの二つの道がつながっていた。
しかも、行き先は、貧乏農場でも億万長者村でもなく、最初にいた村に似ている。
違うのは、自分たちがかなり衰弱していることだった。
よく見ると、途中で脱落したり、いなくなったり、病気になった人もいる。
いなくなったのは「総務太郎さん」。病気になったのは「経理花子さん」のようだ。
着いた村に張り紙があり、よく見るとこんなことが書いてあった。

「改革お疲れ様ー!道中は大変だったでしょう。でもほら、ここは昔とそんなに変わらないのですよ。とにかくこれで皆さんも苦労したということが国民にわかったので、とりあえず、よしとしましょう!!」


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